東京を覆う光の結界を張った紅葉の目からは、ボロボロと涙が溢れ出ていた。
 
解るのだ。蒼馬が今、どんな状態でいるのかが。悲しいほどに、解ってしまうのだ。


「十夜……ごめんなさい、大丈夫?」
 
紅葉を庇った十夜は、左のふくらはぎを触手に貫かれていた。

「平気だ、これくらい……!」
 
十夜も、目に涙を溜めていた。蒼馬の痛みに比べたら、これくらいの傷、何ともなかった。

「蓮は、平気ね?」
 
涙を流しながら、周りの無事を確認する。

「俺は、だいじょ……」
 
蓮はそれ以上言葉にすることが出来なかった。顔を歪めて大粒の涙を落とし、低く嗚咽する。
 
そこに、真吏と李苑、そしてジャクラがやってきた。
 
李苑は泣きながら十夜の傷の手当てをする。真吏は涙を流す紅葉や蓮の肩を叩き、慰めた。

 
それを静かに眺めていた夜叉王とジャクラは、軽く目配せした後、徐に口を開いた。

「持国天のことは残念だが……そうやって泣いている暇はないぜ」
 
と、ジャクラ。

「弁財天、長くは保たんだろう? 私達3人がかりで創った結界ですら、このように崩されてしまうくらいの力だ」
 
夜叉王のその言葉通り、結界を支える紅葉の体は小刻みに震えていた。
 
悲しみのためだけではない。明らかに莫大な負荷がかかっているのだ。