抱えられている聖も一緒に膝を折り、地面に手をつく。
 
その手がガクガクと震えていた。いや、全身が、恐ろしいくらいに震えていた。

今目の前で起こった光景が信じられなくて。信じたくなくて。何度も、何度も頭を振った。

「すまない……。私達の結界では、やはり長くは保たなかった…」
 
阿修羅王の言葉を、遥か遠くから聞いているように、ぼんやりと耳に入れた。

「ヴァジュラは力を蓄える時間を稼ぐのに摩利支天を使っていた。それが完了して人間界に攻撃を仕掛けてくるところを、何とか防いでみたが……予想以上の力だった。持国天を失わせてしまったな。すまない……」
 
そう語る阿修羅王をぼんやりと見つめていた聖は、『持国天』という名前に反応した。

「蒼馬……蒼馬!!」
 
名を叫び、元いたところに駆け出そうとする聖を、腕を掴んで止める。

「もう無理だ。解っているだろう? 運命を共にしてきたお前たちには、今、仲間がどうなっているのか……」

「そんなこと!」
 
聖の顔が歪む。

「そんな、ことっ……!」
 
ギュッと握られた拳が震える。
 
胸の中に、ぽっかりと穴が開いたような喪失感。──解る。否が応でも、はっきりと感じる。蒼馬は、もう、いない……!


「っ……!」
 
声を上げる事はしなかった。
 
ただ、滝のように涙が溢れ出てきた。
 
 
護れなかった。
 
蒼馬の運命を変えてやることが出来なかった。その事実があまりにも、重かった。