短い黒髪を自然に逆立てた、日に焼けた健康そうな少年は。
 
人の輪の中に中々入っていけないような、無口で無愛想な人間のどこが良かったのか。いつも屈託の無い笑顔で、傍にいてくれた親友。


『なあ、お前はあんな風になるなよ』

 
数時間前。
 
滅多に見せない厳しい面差しで、そう言っていた蒼馬。

蓮のように。
 
血塗れで倒れられるのが怖いから。だから、そうならないようにと。


『俺も、ならねえようにする』

 
聖に、皆に心配をかけないように。自分も怪我をしないように気をつける。そう、言っていた彼は。
 
今、目の前で、心臓を貫かれていた。



「蒼馬ああああっ!!!」

聖は蒼馬に向かって手を伸ばした。
 
すると、グイッと手を引かれ、何だか解らないうちに阿修羅王に抱え込まれた。

「来い!」
 
聖を庇うように、阿修羅王は全速力で走る。容赦なく襲い掛かってくる触手はその阿修羅王の体をも勢い良く貫いた。だが阿修羅王は足を止めず、走り続けた。

 
それが、僅か数十秒の出来事。
 
辺りに光が走り、新たな結界が張られた。

「この光は弁財天か。あちらも、なんとか成功したようだな」
 
そう言い、がっくりと膝をつく。