その叫びにも、圭一郎は笑ってしまう。紅葉の怒りはますます強くなった。

「圭一郎さん! 貴方があたしに総領になれって言ったのよね! こんな子供に任せていいのかとか思わなかったの?」

「いいえ、これっぽっちも思いませんでしたよ」
 
圭一郎はあくまで穏やかに答える。

「貴女はまだ気付いておられないだけなのですよ。ご自分の“力”がどれだけ強いのかということ、そして、一番総領に相応しい裁量の持ち主だということをね」

「気付きたくなんかないわ」
 
そう言って紅葉はそっぽを向く。
 
二人の会話を静かに見守っていた蓮は、フーッと息を漏らした。

「紅葉は総領に相応しいと思うよ。だって俺なんか、みんなが何話してるのか全然分かんないもん。今も紅葉がなんでそんなに怒るのか良く分かんないしさぁ」
 
そののんびりとした口調は、一旦落ち着きかけた紅葉の怒りに再び火をつけてしまった。

「だから来るなって言ったのよ!」
 
と、蓮に拳骨をとばすのであった。



しばらく車を走らせていると、対岸がかろうじて見えるくらいの小さな湖が見えてきた。夜の湖は不気味だ。明かりといえば月明かりくらいで、今にも何かが出てきそうな雰囲気がある。

「もうすぐですからね」
 
闇に包まれた湖の向こう側に飛高邸はあった。