「遅い」
 
阿修羅王が剣を押し返すと、聖の体も後ろによろけた。

「スピードも力も、まだまだ足りない。毘沙門天の力はそんなものではなかった!」
 
ゴオ、と炎が巻き起こった。
 
 
来る。
 
そう思った。
 
しかし避けきれるほどの脚力が残っていない。結界を張っても弾き飛ばされる。
 
ならば。

 
聖も剣を構えた。

「爆炎煌っ!!」
 
阿修羅王が剣を振るのと、聖が剣を振るのはほぼ同時だった。両者の丁度真ん中でふたつの炎はぶつかった。
 
力の差は歴然で、阿修羅王の炎が聖の炎を食い尽し、倍になって襲い掛かってきた。

「くっ……」
 
振り切った剣を素早く引き戻して構え、結界を張る。しかしやはり簡単に弾け飛んだ。
 
勢い良く飛ばされる。
 
聖の体は屋上から真っ逆さまに落ちていった。


(駄目だ……)
 
何をしても撥ね返される。阿修羅王にさえ勝てない。その先にいるヴァジュラはもっと強いのに。

 
弱気な考えが一瞬頭を過ぎった。
 
けれど、それはすぐに消え去る。