剣を交えながら上へ、上へと登ってきた聖と阿修羅王は、ビルの屋上へ出て一旦離れた。
 
肩で息をする聖とは反対に、阿修羅王は呼吸が乱れている様子もない。軽く頭を振り、顔にかかった髪を後ろに流す仕草は余裕すら見える。

(強すぎる……!)
 
戦闘が始まってから、ただの一度も攻撃出来ていない。剣を防ぐので精一杯だ。
 
膝がガクガク震え、今、こうして立っているのもやっとの状態。防ぎきれなかった斬撃は、体のあちこちに赤い線を浮かばせていた。

今にも倒れそうにふらつく聖を見て、阿修羅王は溜息をついた。

「これでヴァジュラを倒そうとしてたのかい? 呆れて物も言えないねえ」
 
ハア、とわざとらしく盛大に溜息をつかれる。

「そんなこと言われてもな……」
 
阿修羅王には聞こえないくらいの小さな声でそう言い返す。

「そんなんじゃ……ここで死んでしまうよ?」
 
阿修羅王はトン、と軽く跳んだ。

「もう少し楽しませておくれよ。決闘相手がこんなでは面白くない」
 
トン、トン、と更に軽く跳んだ後、一瞬にして聖の目の前に来る。

「毘沙門天の力、見せてみろ」

「──」

「ここで死にたくはないだろう?」
 
ニイっと唇の端が上がる。
 
聖は悪寒を感じて剣を振り上げた。しかしあっさりと剣で止められてしまう。