相手の返事も待たずに、手を握ったり、抱き上げたり。少しも顔色を変えずにやってしまう。それは無意識であるからなのだろうけども。
 
あの時と、平時とのギャップ。

ここまで意識されると“かわいい”とさえ思えてくる。

「それじゃあ、部屋に戻りましょう? 少しでも眠らないと」
 
そう言いながら、クスクス笑う李苑。それを怪訝そうに眺める聖。

「うん……」
 
何故彼女が笑っているのか理解できず、腑に落ちないまま返事をする。

「あ、李苑、ありがとな」
 
聖はもう一度礼を言う。

「いいえ」
 
李苑はそう言ってから……少し背伸びをした。そして、聖の頬に軽くキスをする。ちょっとした悪戯心もあったのかもしれない。

「……おやすみなさい」
 
軽くはにかんでそう言うと、李苑は部屋の中に姿を消した。

「……」
 
聖は呆然と立ち尽くす。

(え、えーと)
 
思考停止状態の頭で、何か考えようとした。

(ああ……そうそう、李苑って帰国子女だったよな)
 
修行中、李苑が誰かに話していた情報を、頭の片隅から無理やり引っ張り出した。