FORTUNE~フォーチュンシリーズPAGE1

「天野くんも、皆さんも向こうで休みなさい。私はちょっと所用がありますから、これで失礼しますよ」

「はい……」
 
圭一郎は慌しく家の外に出て行く。
 
総領である紅葉が頼りにするくらいの人物だ。この状況では多忙を極めているに違いない。
 
 
その姿を見送ってから、蓮を治療中の部屋に入る。

十夜は遠慮しているのか、入り口から動こうとはしなかった。その表情は暗く陰っていたが、それを気遣う余裕が今はない。

「蓮……」
 
そっと声をかけると、僅かに反応が見られた。瞼がピクピクと痙攣し、指先が何かを探すように動く。

「大丈夫、みたい」
 
ホッとしたのか、紅葉は今まで見せたこともないような穏やかな笑みを浮かべていた。

その気持ちは解る。紅葉が一番、蓮の近くにいる人物なのだから。

 
蓮の治療を続けていた李苑は、ふと、真秀に手を掴まれた。

「ありがとう、もう大丈夫よ。あとは蓮くんが自分の力で治せるでしょうから」

「でも、傷口はまだ……」

「今度は貴女が倒れてしまうわ。大丈夫、後は私に任せて。皆さんも疲れたでしょう。二階を空けておいたから、そこで休んでください」
 
優しい口調は、どこか圭一郎に似ている。
 
張り詰めていた糸が徐々に解されていくようだ。