「……そうだ、だから……」
 
ファリアはゆっくりと顔を上げる。

「誰も私を助けてはくれなかった。だけどヴァジュラ様だけは受け入れてくれた!」
 
両の手のひらに、無数の夢幻球を浮かべる。

「だからお前たちを倒すんだ! ──夢幻球!」
 
ヴン、と音が鳴り、夢幻球は飛んでいった。真吏をグルリと取り囲み、幻術を発動させる。
 
真吏は──それを見ても動く事はなかった。
 
ただ黙って、その術を受け入れた。

「なっ……!?」
 
ファリアは目を見開く。緋色のオーラに包まれていく真吏は、それでも穏やかな顔をしていた。

「……ファリア。名は?」

「……え?」

「お前の名は、何と言う?」
 
唐突な質問だった。
 
だが、何の躊躇いもなく、口を開いた。

「──十夜<とおや>……」
 
ファリアの生まれ変わりの少女、十夜は自分でも信じられないくらい、素直に答えた。

「とお、や……。悲しいな……」
 
真吏の身が徐々に地面に沈んでいく。

「独りは辛く、悲しいものだ……。それを、解ってもらえないのは、とても……」
 
真吏の体は完全に緋色のオーラに包まれ、それ以上言葉を発することは出来なかった。