キキキキッとタイヤのスリップする音。一台の車がガードレールを乗り越えて崖の下に転落。そして炎上。
 
蓮は思わず目を逸らした。
 
その場面を見たことはない。けれど、あの車には先代の陰陽家総領であった紅葉の両親と、その補佐をしていた蓮の両親が乗っていたことを知っている。
 
総会の帰り道、激しく降る雨が作った水溜りがスリップ事故を引き起こした。


(お父さん達は急いでたんだ)
 
それは蓮のため。
 
その日は、7月10日は蓮の誕生日だったから。
 
早めに帰るという両親の言葉を信じて、いつものように飛高邸で紅葉と2人で待っていた蓮の元に事故の報せが届いたのは、時計が次の日を報せる2分前のことだった。
 
だから蓮は、自分の誕生日と雨の日と、11時58分は嫌いなのだ。
 
 
兄弟のいなかった蓮は、両親を失って天涯孤独の身となってしまった。
 
それでも何とか立ち直れたのは紅葉の存在があったからだ。
 
紅葉も同じく一人取り残された者。でも紅葉は強かった。少なくとも、蓮には強く見えた。

お葬式の時もひとつも涙を見せることなく、対照的に大泣きしていた蓮を慰めてくれた。

(本当は、紅葉も泣きたかったんだろうな)
 
後になってそう思った。だから蓮は紅葉に謝ったことがある。自分ばかりが泣いてごめん、と。
 
しかし返ってきたのは容赦ないハリセン攻撃。
 
その後で笑って、

「連が2人分泣いてくれたからいいのよ」
 
と言ったのだ。