湿気を含んだ夏の風が、ザアッと長めの前髪を掻きあげた。

(……ここは?)
 
連は薄く目を開ける。
 
眼下に広がる深緑の森。その中心にあるキラキラ輝く湖。その畔にある、赤い屋根の大きな洋風の屋敷──。

「……えっ?」
 
連は大きく目を見開いた。
 
その赤い屋根を、上から見下ろしている。

「ええっ……!?」
 
連は両手、両脚をジタバタ動かしてみた。何の手ごたえもない。信じられないが、紛れもなく宙に浮いていた。

 
何がどうなっているのか解らずにいると、屋敷の中から一人の少年が飛び出してきた。
 
屋敷──飛高邸から飛び出してきた10歳くらいの少年は。

「……俺?」
 
それは他でもない、連自身だった。5年前の、自分の姿だ。

(ああ、じゃあこれは夢なんだ)
 
夢を見ているのなら、宙に浮いていても何の不思議もない。
 
そう納得すると、今度は肩ぐらいに黒髪を伸ばした少女が屋敷から飛び出してきた。身長は連よりも大きい。

「紅葉……」
 
紅葉は、何やら叫びながら連を追いかけている。