「なっ……」
 
あまりの眩しさに、ファリアは手を顔に翳し、目を閉じる。
 
薄く目を開けると、そこは真っ白な花嵐となっていた。
 
純白の花びらが、ヒラヒラと身体に降り積もる。

「……こ、これは……ううっ……」
 
ファリアの胸がチクチク痛み出す。
 

『傷つくのは、止めて』

 
先程の李苑の言葉が頭の中を駆け巡る。


「やめろっ……やめろおっ……」
 
ブンブン手を振って、花びらを払う。しかし胸の痛みは増すばかりだ。
 
 
傷つけないで。

傷つかないで。
 

「黙れ、黙れっ……」
 
頭を抱えて座り込む。

「わ、私は、私は……!」
 
ブルブルと身を震わせ、迫ってくる『過去』に怯える。


 
そのままファリアの精神に訴えかけようとしていた李苑は、パタリと身を沈めた。
 
舞い散る白い華をしばらく見つめた後、ゆっくりと目を閉じる。

「……ごめんなさい……約束、守れな……」
 
ファリアを押しきれなかった。そのまま、意識は深いところへと落ちていく。

 
 
やがて花びらは消え去り、静寂が訪れた。
 
小刻みに震えていたファリアは、ゆっくりと顔を上げた。

「……わ、私、は……」
 
立ち上がり、落ち着きなく目を泳がせ、足を引きずるようにして歩いていく。
 
その先に倒れていた連を目にし──少しずつ、呼吸を整えた。

「……私は、ヴァジュラ様の為に……こいつらを……」
 
2本の剣を持ち直し、構える。
 
 
その瞳には、僅かに迷いが見えていた……。