蒼馬との勉強会を終え家に戻ってくると、沙都美の明るい声が飛んできた。

「お帰り、お兄ちゃん」
 
その笑顔を前に、声が出なかった。
 
……何故、沙都美がここにいるのだろう? そんな疑問が頭を過ぎった。

「お兄ちゃん?」
 
そんな聖を見て、不思議そうに首を傾げる沙都美。

「あ、ああ、ただいま……」

「何ボーッとしてんの~? 暑さでおかしくなったあ?」
 
悪戯っぽい笑顔でそう言う沙都美。
 
いつもと変わらない妹。
 
いつもと同じ……はずだ。
 
でも。

「沙都美」

「何?」

「ここに……いたんだっけ?」
 
聖の質問に、沙都美はきょとんとする。

「何言ってんの、お兄ちゃん?」

「……何言ってんだろうな」
 
聖も自分で何を言っているのか解らない。けれど何かしっくりこないのだ。何かが違うような気がして……。

 
夕飯までには父親も帰って来た。ニコニコと優しく笑う父親に、戸惑いを感じずにはいられなかった。

「どうかしたのか、聖」
 
気遣わしげな優しい声が、かえって異様な雰囲気を助長させた。

(そうだ……。そうだよな……)
 
聖は自嘲気味に笑った。
 
これは確かに、“夢の中”だ。