ここに妖魔がいるということは、紅葉達にも危険が迫っている可能性が高い。一人で行かせるのは危険だろうと判断したのだ。
 
李苑と2人で走り出そうとした時。向こうから紅葉と真吏が走ってくるのが見えた。


「皆! 大丈夫!?」

「紅葉さん! 紅葉さんは大丈夫ですか?」

「ええ、さっきまでファリアと戦っていたんだけど……」

「何故か、消えたのだ」
 
真吏が付け加えた。

「消えた……?」

「そうなの。あっさりと引くなんて、おかしいと思うの」

「うむ。……何か、嫌な予感がするのだが」
 
真吏は、そこで言葉を切った。
 
全員、それ以降言葉を発せなかった。

 

南東の空から、嫌な空気が流れてきた。
 
じわり、じわりと身体の奥まで侵されてしまいそうな、禍々しい空気。
 
身体が硬直した。息をするのさえ苦しい。
 
それは。
 
二千年前から対峙してきた者の居城。

「邪空間……」
 
 

暗雲が、夕刻の朱を真っ黒に染めた。