昼休みの校舎の中は、人気のないところを探す方が難しくて、私は結局、中等部との境にある温室に彼女を連れて行った。

 中には入らずに、扉の前で立ち止まる。

 温室の周囲も庭園になっていて、色とりどりの花やハーブが咲き乱れていた。

 私たちのすぐそばではローズマリーが生い茂っていて、よい香りが自然と漂ってくる。

 私の大好きな場所。

 ここなら、彼女の用件がなんであれ、穏やかに話せるような気がしたんだ。



「えっと、ごめんなさい、こんなところまでつれてきて。

 ゆっくり、邪魔が入らず、お話できるところって、他に思いつかなくて」



 私は、周囲に目をやっている彼女にそっと声をかけた。

 彼女は、はっとしたように私の方に顔を向けた。

 綺麗な、少し冷たく感じるような綺麗な顔。でも、やっぱり、彼女に見覚えはない。

 

「いえ。ここなら、よけいな邪魔は入りそうにないし、ゆっくり話せそうで、いいかな」

「そう、よかった。で・・・私にどんな話があるんですか?」



 なにを言われるのだろうと内心、ドキドキしながら、話を切り出した。



「私、あなたのことを知らないと思うんですけど・・・もし違ったら、ごめんなさい」

「ええ、しらない、かな? でも、私は知ってる」



 言いながら、強い瞳が私をまっすぐ射抜く。