「いえ、これもお仕事ですから」

けれどアタシはニッコリ笑みを浮かべて、箒を持ち上げる。

今、アタシは一人で庭の掃除をしている最中だった。

「ところで何かご用事ですか?」

「ああ、そうでした」

あの人は柔らかな笑みを浮かべたまま、アタシの側に来る。

そして耳元でそっと、

「…今夜、私の部屋に十時に来てください」

「はっはい…」

低い声で囁かれ、思わず声が裏返ってしまう。

けれどあの人はにっこり微笑んで、邸に向かう。

「ふぅ…」

…あの人と恋人になって数ヶ月は経つけれど、こういうのは慣れないなぁ。

「まっ、相手が上手ってことだけど」

アタシはメイドとして、あの人は執事として、ここに住み込みで働いている。

大学を卒業したのは良いけれど、就職浪人となってしまったアタシに声をかけてくれたのが、あの人だった。

最初はメイドなんて…と思っていたけれど、お給料が良かったので、今では自然な作り笑みも得意になってしまった。