「…ジーク王子、失礼ながらその方は?」
ノアは二コリと“その方”に微笑み、柔らかくジークに問う。
ジークはその問いに「王族専用の絵描き、トーマスだ」と答え、次いでトーマスも「お初にお目にかかります。絵描きのトーマスにございます。」と頭を下げる。
そしてジークが目線を扉に向けるのを見ると素早く画材道具を片付け、何事もなかったかかのように「失礼致しました」と、部屋を去って行った。
油絵の具の匂いに混じり、ほのかに銀薔薇<シルバーローズ>の香りがしたと思ったが、ノアは気のせいだと思いなおす。一億センヌ払ってようやく一輪手に入るくらいの高級品<銀薔薇>を、彼が持っている訳がないと。
ノアは思考を止めじろりとジークを一睨みすると、近くのソファに身を沈める。
「人を呼びつけておいて貴様はそのザマか」
「悪ぃ<ワリィ>なぁ、ノア。まさか一日も早く来るなんざ思ってもみなかったんだよ」
その言葉にノアはそうかと頷き、キリスを呼ぶ。



