「これを見てお前はどう思う?」

そう言い、ノアはウィンディライム王国、国王陛下の第3皇子、ジィーディング・ウィンディライム王子(通称;ジーク王子)からの手紙をキリスに見せた。


ノアは公爵家の当主であり、ジークとは幼い頃から少なからず面識があり年齢も近い為、長い間友人としてずっと文通を交わしている。
そんなジークはノアの、数少ない親友と呼べる人物だ。

「〘2月5日の午後3時までに、大至急王宮へ来てくれ。長期を覚悟するように。(キリスも無理やり連れて来い)〙……ですか」

「ああ、しかもご丁寧に古語文で送ってきやがった。あのジークが相当急いでいるようだ」

ククッ、とノアは喉を鳴らして楽しそうに笑う。


一方キリスは、目を細めて面倒臭そうに手紙を見つめる。

「おそらく、妹君のリリア様の事でしょうね」

リリア様、とはリリセシアン・ウィンディライム。
第4王女であり、ジークと2つ年の離れた妹だ。
ジークはリリアの事を溺愛しており、『リリアが死んだら俺も死ぬ』と、国民の前で笑顔で発言したりしている。
(国民は冗談だと思っているが、本人は至って本気だ。)


リリアは今年で15歳になり、まるでお伽噺に出てくる夜姫<ヤヒメ>のように黒眼黒髪、純白の肌を持つ美しく聡明な姫君に成長した。
性格も心優しく、謙虚でいつも静かに微笑んでいる本好きな少女だ。


そんな彼女には数多<アマタ>の求婚者が後を絶たないと聞く。
(そしてその求婚者達を蹴散らせているのがジークだと言うことも)

「あぁ、出発は明日の朝だ。それまでに支度をして置け」

今日の日付は2月1日で、ここから王宮まで、馬車で約二日かかる。
2月5日には余裕で着く事ができるだろう。



――――楽しみだな。



ノアは無意識に口元を綻ばせる。


そしてそんなノアを見て、キリスは静かに微笑んだ。