「…さん、…おさん、奈央さん?」
「ぁ…何?矢吹くん」
「目ぇ、赤いっすけど…どうかしたんスか?」
「ぁ…、うん。彼氏に振られちゃったの…」
「…っ。じゃぁ、俺と付き合いませんか?」
「…ごめん。あたしはまだ彼のことが好きだから」
「その人のことを好きなままでいいです。俺が、忘れさせますから…」
「…こんな中途半端な気持ちで、付き合うことはできない」
「…じゃぁ、1カ月。1カ月でいいんス。俺と…付き合ってください」
「……わかった。矢吹くんは、ホントにそれでいいの?」
「はい。俺が、忘れさせますから」
凛とした、瞳。
「…ありがとう」
トクンと、胸が鳴った。

彼なら…。矢吹くんなら、忘れさせてくれるかもしれない。
彼の、ことを──……。
瞬の、ことを──……。