「…ん・…」
目を明ければ私を覗き込むように見つめるクリっとした双眸。
目が合えば嬉しそうに声をあげた。

「黄李さま~っ、お姉ちゃんが目を覚ましたよっ。」
「目を覚ましたのなら用は済んだじゃろ、帰るぞ、葵。」
「え、で、でもっ…」
「えぇぇい、さっさとせんか、ワシが伯耆様に怒られる!!」

そんなどこからか聞こえるどなり声を余所に葵と呼ばれた
まだ幼い子供が私に声を掛けた。

「ねぇ、お姉ちゃん大丈夫?怪我してない?どこから来たの?見慣れない着物だけど」
「大丈夫、怪我は一つもないよ。え…着物?」
ここで初めて気づいた。
自分が来ているのは着なれた制服、そして目の前の子は着物。
辺りを見回せばビル一つない新緑。
ここにきて初めて、記憶が蘇ってきた。
【今の世界を捨てて別の場所へ行くか…】
「っていうか、行き場所を教えて、その場所に合わせた格好を選んで欲しかった…」
「ん?どうしたのお姉ちゃん??」
ボソっとつぶやいた私の言葉に首を傾げる女の子に笑顔で「なんでもない」と
伝えればにっこり可愛い笑顔が返ってきた。