「智、何言ってんの。帰るわよ友絵ちゃん」

 アスカ先輩に強く手を引かれて、私はその場を後にする。

「……さよならっ」

 振り返り際、智先輩に頭を下げた。

 智先輩はやっぱり、いつものように柔らかく微笑むだけだ。

 見ているだけで胸が痛むような、そんな悲しそうな笑顔を浮かべて。

 私は翌日、お昼休みが来るのを初めて怖いと感じた。

 ネコが好きだから会いに来たい。

 智先輩と初めて会話したとき、確か私はそう言った。

 だからルカがいなくなった今、私にはもう裏庭に行く理由がない。

 鳴り響いたチャイムの音に、私はハッとして顔を上げた。

 いつもなら大好きだったお昼休みの時間だ。

「西口さん……あの」

 歩み寄ってきた大人しそうなクラスメートが、おずおずと口を開いた。

 親しくはないが名前くらいは知っている。

 確か、古谷 真由。

 地味だが誰とでもソツなく付き合えるタイプの、性格優等生。

「よかったらお弁当、一緒に食べる?」

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。

 きょとんとする私に古谷さんは、はにかむような笑みを浮かべる。