記憶を失っても性格というものはあまり変わらないのか、確かにご飯を食べる気分ではない。



「別に細くないって」


「お前事故で大量出血してんだぞ。肉食え、肉」


「い、今お肉なんか食べたら余計体調悪くなる!」


「いいから食え」


「…ぶっ!?」



言い返すことに気を取られて油断していたら、口にパンを押し付けられた。


なんなんだコイツは本当に。


身体のことを心配してくれてると思えば感じはいいけれど、それにしたって強引すぎる。


だけど身体のことでみんなに心配かけたのには代わりないから、ここは大人しく言うことを聞いておこうと思った。



「ありがとね、朔夜」



ぽんっと彼の背中に手を当てて、そっとすり寄った。


そしたら「バカか」って言って、照れたようにそっぽを向く。


どうやらヤツは無愛想なのにどこか優しくて、そして照れ屋らしい。


何となくだけれど、よく分かんない藤原朔夜を知りたいと思った。


何故かそれは、何も分からない自分のこと以上に。


―――この先天敵になりそうなヤツのことを、知りたいと思ってしまった。



その選択は、吉か凶か。