偶然だと思いたかった。
あんなにも大事な百合亜から聞かされた言葉を否定して、耳を塞いでしまいたかった。首を横に振って拒絶しようとしても、彼女がそれを許すはずもなく。私はまた、さっきと同じように腕を捕まれて″そこ″に連れていかれた
百合亜の瞳が、痛い。私を慈しむその瞳が、私を心配する瞳が、どうしてか嫌な予感が消えない胸中に染みていく。それだけで私が本当は理解していて、だけど理解したくなくて隠したがっていた真実を暴かれたような気がした。
彼女は私を、ぬるま湯に浸からせてはくれない。
『橘颯人は悪い意味で有名なやつよ』
颯人と時間が合わないのはただ単にタイミングが悪かっただけだと思ってた。初めて会ったときから、あの場所に行けばいつだって颯人と出会えたのは、単に颯人がよく授業をサボるからだと思ってた。
何だ、違ったんだ。
そんな言葉で締め括って、目の前に広がる光景を片付けたくない。頭の中が拒絶でいっぱいになる。私の腕をキツく掴む百合亜の手を払ってしまいたい。
「もう、いいよ。帰る。帰りたい」
「ダメよ。紅鈴、ちゃんと見て」
「嫌だ!!」
「紅鈴、それでもダメ」
認めてしまえばきっと私は颯人を疑い続ける。それが嫌だと言っているのに、現実逃避をさせてくれない。
「…なんで、はやと」
『橘颯人は女遊びが激しいことで有名なの。だから紅鈴、本当に橘颯人と付き合っていいのかちゃんと見極めて。その目で見て、ちゃんと理解して』
目に見える形にされたら、疑い様がないじゃない。
いつもの公園より外れた所にある、可愛らしい喫茶店に、今日会えないはずの颯人と見たことのない女の人の腰に手を回して入っている場面を見た。それだけだったらきっと、こんなに動揺しなかったのに。
「ハヤトくん、ちゅーして」
「…いいよ」
見知らぬ女の子のお願いにアッサリと頷いて、アッサリと恋人行為をしてしまった彼を見たら何も言えないに決まってる。
「も、わかった…分かったから帰ろ、百合亜」
「紅鈴、ちゃんと橘颯人のこと」
「うん、うん、分かったから」
目に涙を滲ませながら、絶対に泣かないと食い縛る。喉の奥が熱くなって、そこまで悲しくなかったはずなのに辛く感じてしまった。何処と無く鼻声で情けない私の声。最初は百合亜に引き摺られていたのに、いつの間にか私が彼女を引っ張って家に帰っていたようだ。
何か、一気に疲れた。溜め息を一つ溢して携帯を放り投げる。
その日は颯人からのメールに適当に返事をして、一先ず無かったことにすることでいっぱいだった。

