「今日も彼、来てるわよ」

「・・・・ゆりあ、」

「紅鈴」


ダメだ、吐きそう


その視線に堪えられなくて、心も躯も限界を迎えそうになっていた



─ソノ綺麗ナ物ヲ見ル眼ガ、トテモ怖イ



誰にも言えない、秘密の感情だった。最も百合亜は、勘づいていたようだけれど


それでも言えなかった。怖かった



周りが望む最善の理想へと、私らしさなど殺して、望まれるがままに偽物の私であり続けた



怖かったのだ。期待外れだと切り捨てられる様が。目も当てられないほど悲惨に思えて、自分の存在など無くてもいいんだと、誰かに告げられるようで


「(沈んでしまいそう)」


閉じた目の先から、墜ちていきたいと思えた






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『いい子でいなくてはダメよ』



綺麗なはずなのに、歪に微笑む母親が嫌いだった

幼い頃から、私にとっての恐怖の対象は実の母で、笑顔や仕草、そして私に話しかける姿さえもが怖かった


気味が悪かったのだ。母の言動1つで変わり身をする大人たちが。神や仏のように崇拝されて、誰からも愛される母が

笑顔の裏に向けていた感情が



怖くて仕方がなかった。大人が化け物に見えた。だから私が、母に向けられるような視線を浴びたとき


『この間は有難う御座いました!』


視界に映る、腰を折る姿。そして、期待の籠った瞳