「颯人が大事だから、したんでしょ?」

「違う。これは俺のエゴだ。噂の聖人君子を見たかっただけ」


ぎゅうっと腕の力が込められて、私を縛り付ける。まるでこの場から意識自体も逃さないと言うかのように


こんなに汚いものを見たかったの?

案外この人も馬鹿だなぁ


ダメだ。私、こういう人に弱い


「そんなマヤカシ、見るだけで損するよ」


そんなのただの怪物だから

冷酷に落として、天井を向いた


私、一体何をやっているのだろう。何が、したいのだろう

もうワケが分からない


若干自棄になっている私を離さないように締め付ける彼と、もはや廃人同然な私

もう嫌だ。消え去りたい



最終下校のチャイムが廊下に響く


先程まで隔離されていたように感じていた2人だけの空間から抜け出して、意識を取り戻した私は、にこりと笑顔をつくって


「帰りましょうか」


泣きそうな顔をしている彼に声をかけた

誤魔化す、為に


何の感情も感じない中、暗くて歩き慣れた廊下を歩いて、唯一1つだけ浮かんだことがあった


「(そろそろあの季節だ)」


雪が降る