「ハイハイ。じゃあ、これは食えねぇな」

「えっ!?まだあったの?」

「ん?…まぁな。リンゴ剥いただけだけど」




遥翔はタッパーの蓋を開けてくれた。




「え?…これ怪じゅ…「ウサギ!!」

「…ウサギ?」

「俺、包丁持ったことなくて、全然うまく切ってやれなかった。」





遥翔は頬を少し赤く染め

顔をかきながら、そっぽ向いた。






「ううん!…すごくうれしいよ」





あなたはホント、私の心を奪うのが得意だ。


今だって私、あなたの指に巻かれた絆創膏にドキドキしてる。





ダメだって、分かっているはずなのに。




あなたはそんな気持ちさえ



いとも簡単に、塗り替えるんだ。











シャリッシャリッとリンゴを食べる。



…気のせいかな。


ううん、絶対気のせいじゃない。




さっきから、遥翔にがん見されてる。





「遥翔、なに?」

「んー、べっつにー」




ずっとこんな会話の繰り返しで。



遥翔に…好きな人に、食べてるところ見られるのって
結構恥ずかしいのにな。





私はそんな恥かしさを紛らわせるように、最後の1口を飲み込んだ。






「よしっ!食い終わったな」





遥翔はお皿とフォークを私の手から奪い、キッチンへ行こうとする。





「ま、待って遥翔!」

「なに?」

「お皿洗いは私がやるよ。今もう7時だし。そろそろ帰ったら?」





しどろもどろになりながら、遥翔に言った。


不機嫌な遥翔の顔を、私は直視できない。






うわーん、超キレてるよ。


私はただ…ただ……遥翔の指に傷を作りたくないだけなのに。






「うっせ。最後まで男に任せときゃあいいんだよ。ちったぁ学習しろ」





コツんっと頭を小突かれて。


そこからふんわり広がる、小さくて大きな温もり。






「っつーことだから、俺がやるんで」

「遥翔…強情」

「勝手に言え」




遥翔はそう笑みを浮かべ、またキッチンへと向かう。




大丈夫なのかな…。


お皿洗いとか、慣れててもときどきお皿割っちゃうのに。