もう出てくるかな。扉の前から退こうと背中を離すと同時に声が続く。 「あら、若いなと思っていたら、お姉ちゃんだったの」 「あ…はい、ちょっと母は」 「そうなの、大変ねえ」 哀河の声が強張った。 あ、今度こそ出てくる。 ガラリと引き戸が開いて、母親とその子供が出てくる。俺には気付かないようで、小さい声で「あんな家庭で育ったんじゃねえ…」と言うのが聞こえた。 耳の奥がざわめく。血が騒ぐ感じを抑えて、その背中から視線を逸らした。 「暴力はダメだって、言ったよね?」 教室の中を覗く。