「良かった、傷自体は大したことないみたい…」


とりあえず濡れタオルで全身の泥を落としてから傷口を消毒した。
見たところ傷はどれも深いものではなく命に別条はなさそうだ。

むしろ私の心の方が重傷だった。
全身の泥を落とすためとはいえ、見ず知らずの少年(ていうか未確認生物)の服を剥ぎ取る真似をしてしまった。
高校2年生という思春期にこれは何とも言えない羞恥だ。
不可抗力だから気にする必要なんてないんだろうけど。うん。


「にしても可愛い顔してるなー…」


泥を落とせば【美人】の言葉が似合いそうな顔をしていた。
綺麗な顔立ちは女の私より数倍整っている。
ぷっくりした頬をつん、と指でつつくが反応はない。
文字通り死んだように深く眠っている。


「まるで眠り姫…ってロマンチックだな私!」


一人ノリツッコミをして苦笑する。
まだ頭は混乱したままだ。


「あ、布団。布団入れてこよ」


もしかしたらこの春の陽気にあてられて幻でも見ているのかもしれない。
布団を取り込んで帰ってきたらただの猫が寝てたりして。