2012年4月。

【事実は小説より奇なり】とはよく言ったもので、私、藤原美希は今まさに奇妙な状況に置かれていた。


「こいつ…何だ…?」


干していた布団を取り込もうとベランダの窓を開けた瞬間、私はソレを踏みつけそうになった。
寸前のところで回避できたのは足元から鈴の音が聴こえたからだ。


「…にー…」

「猫?…いや…」


ボロボロの状態で横たわっているソレはどう見ても【猫】じゃない。
人間の子供だ。
白に近い色素の薄い髪をした10歳にも満たないくらいの男の子。
ただ私が猫と勘違いしそうになったように、彼は普通じゃなかった。


「猫耳と…しっぽ…」


生えているのだ。
灰色の毛並みから真っ黒な猫の耳が。
そしてワンピースのような服の裾からは同色の尻尾が二本出ていた。


「ぇ…マジで、なに…?」


人間は極限まで混乱に陥ると、とにかく固まるらしい。
私は呆然とそのコを眺める。
そして気付く。


「けが、してる…」


よく見れば泥だらけの肌にはあちこちに擦り傷やら切り傷やらができていた。
対応を考えて再び現実逃避に走りそうになったが、固まっている場合じゃないことだけは確かだ。

私は布団を置き去りにしてそのコを抱き上げた。