だが…榊の手がすっと、俺の前に出された。
『やはり…』
『つられて…』
『でてきたか…』
榊の喉元にある変声器から、高低様々な声音が響いてくる。
それはまるで複数人が離している錯覚を引きおこす。
『だまさ…れるぅ…』
『とはな…くっくっ…』
その中の音色には、俺の…この掠れた声に近しいものもあって。
久涅は、眉間に皺を寄せて俺と…仮面男を見ている。
仮面に隠された顔には、表情は読み取れない。
変声器で着色された機械音にも、心情を読み取れない。
表情で真実を確かめる術があるとすれば…俺だ。
榊が俺の前に現われた魂胆は判らない。
元々は氷皇を通しての付き合いしかなく、親近感よりは警戒の念の方が強い。
遠坂の兄ではなかったら、あんな胡散臭い男の腹心など、俺の近くに寄らせたくない程なんだ。
しかし…榊は俺を庇おうとしている。
実は榊の1人芝居だったと。
己の変声器は…恐らく榊にとっての屈辱の機械。
それをさらけだしてまで、俺が庇われる理由もなく。
味方、とも言い切れぬ緊張感がある。
判らないんだ、榊という人間性が。
俺は榊を理解しようとも思わないし、したいとも思わなかった。
だから榊という人物像が、崇拝する氷皇以外の如何なるモノで構成されているのかは見当もつかないけれど。
――ゆかをたのむ。
その言葉だけは真実だと思ったから。
それ故に――
俺の前に現われたのだとしたら?
過大に解釈しているのかも知れない。
何かの罠があるのかも知れない。
しかし俺は約束をしたんだ。
遠坂のことは任せろと。
それ故に――
俺が正体をばらしたら、それを隠そうとしていた遠坂にも危険が迫る可能性がある。
ああ、何より仲間を危険に陥らせるわけにはいかない。
だから俺は…
久涅に正体を隠さねばならない。
だったら俺がとる術は――。