「婚姻など、所詮は政略的で成り立つもの。愛だの幸せだのなどありえない。妄想、幻想。それは…妄執だ」
一瞬――
垣間見えたのは…当主にとって似つかわしくない、"諦観"。
「愛などは…ひと時の甘い夢。
現実逃避にしか過ぎぬ」
違う。
「お前も櫂も久涅も。何故あの娘に執着するのか。
――血は争えない、ということか」
違う。
血がどうのの問題ではない。
僕の存在が…
芹霞を欲しているんだ。
櫂が好きだったから、芹霞に惹かれたわけではない。
"僕が"必要なんだ、芹霞という存在が。
――紫堂櫂を愛してる!!!
「お前のように…"影"の存在でなら、愛人として"遊ぶ"ことは許してやろう。だが婚姻ということは、子を成すことが大前提。
成さぬなら、"影"など認めぬ。
意味は判るな?」
芹霞は――
"影"じゃない。
僕は、芹霞以外を抱きたくない。
子供なんて、欲しくない。
「選ばせてやるぞ、玲。
結婚するか、次期当主を捨てるか」
それは悪魔の選択。
「玲、2日やる。
娘をモノに出来る自信があるのなら、2日で落としてみろ。
その上で、結論を出せ。
櫂が12年間かかったことを、お前が出来ると言うのならな。櫂にはない"豊富な女経験"で口説き落として、"影"にするかどうか判断してみろ。
出来るならばな、ははははは」
"影"にすら、出来るはずのないと決め込んでいる当主の笑いは…心に染み込んで。
「玲。次期当主としての自覚があるのなら、紫堂にとってチャンスだということが判るだろう。あの皇城家と縁続きになるということは、行く行くは元老院の手からも逃れることが出来るということ。
それを、当主代行として…大三位が打診してきた」
周涅が…。
僕は、そこに陰謀を感じて。
きっとそれは――
久涅の策略だと思ったんだ。

