「見ろ、あの虚ろな表情は…トランス状態に入っている」
白目を剥いて俺達が居る後方に仰け反り、左右にゆらゆら揺れる女の上半身。
それは聞こえてくる合唱の旋律に合致していて。
動き続けているのは、女の意思か。
音が繰り出す、淫靡な光景。
これは狂った宴、魔宴(サバト)。
女が朱貴の精を吸い取って全ての瘴気を手に入れる時、その最高潮の盛り上がりに…一体何が起きるのだろうか。
濃度を高めた瘴気が強くなった中で。
新たな瘴気が、別の瘴気を生む中で。
欲だけが荒ぶるこの中で。
あの黄色い布はどんな意味を持つのか。
燃やしたい。
さっさと燃やした方がいい。
しかし――
聖はまだ"待て"。
そして前方奥の扉。
居る。
周涅が。
俺でさえ周涅の気配が判るなら。
きっと周涅だって俺と桜の気配は判っているだろう。
聖無視してさっさと突っ込むか!!?
攪乱して、混乱に乗じて逃げ切るか!!?
その時、聖の声がした。
「行けッッッ!!!」
俺と桜は目配せをして、
そして魔方陣目がけて飛び出した。

