ちらりと上の穴の小猿の様子を伺ったが、術の発動に懸命で…こちらには気づいていなかったらしい。
良かったのか、悪かったのか。
俺は桜に、聖の作戦を伝えた。
「確かに…瘴気の流れが変わっている」
身を屈めて前方を伺う。
蠢く女の姿。
吼える女。
桜も俺も惑うことはねえ。
場に当られることはねえ。
つまりそれは…
この場の瘴気に変化があったからで。
魔方陣の瘴気を受けた七瀬。
七瀬から受けた朱貴。
朱貴から…女に流れ込みつつあるというのか。
絶倫朱貴でも、あの女の手管には陥落してしまうのか?
それが…俺には妙に悔しかった。
辛いことは判るけれど、どうせなら、七瀬の愛を貫いて欲しい。
その純愛を守らせてやりたかった。
そう思ったら、居ても立ってもいられなくて。
もういいか?
もう魔方陣壊して布燃やして…
朱貴と七瀬助けてもいいか!!?
あの女、ぶっ倒してもいいのか!!?
上の穴を覗けば、聖が穴から顔を出して、"待て"の合図。
小猿の式と合わせようとしているのか。
「聖は…何の姿の式で、場を攪乱させようとしているんだ?」
女の嬌声が断続的に聞こえてくる。
「判らねえけど…小猿でも理解出来る姿には間違いねえよな」
朱貴は、七瀬は…大丈夫か!!?
「……近いな」
桜が言った。
それは女の切羽詰まった声から女の身体の変化を口にしたのではなく…場の人間共が、合唱を始めたからだ。
凡そ人間の言葉には思えねえ、何かの言葉を。
それが妙に…追い詰められた気分にさせる。

