「さ、盛るわけねえだろ!!?」
何で心底否定の言葉が嘘臭く響くのか。
その時、桜の触れた地面に…血が溜まっているのを見つけて。
「どうした、手を怪我したのか!!?」
桜の握りしめた手から血が滴り落ちていることに気づく。
「ただの気付けだ。何ともない」
広げた桜の手には…何かの破片。
硝子のようなもので、先端が尖っているものだった。
「いいものを拾えた。
よってたかって触手が伸びて、私を弄ぼうとした幻覚を払えた。
私は朱貴にはなれない。
痴態を晒すくらいなら…私は迷わず死を選ぶ」
そう言い切る桜は、いつもの桜で。
幻覚だと…自覚出来ていたのか。
「でも…今は出来ない。
全てを放りだして、逝くことは」
俺は…聞いてみた。
「芹霞は…出てこなかったのか?」
すると桜は僅から目を細めて、
そして俺から顔を背けた。
「芹霞さんが…
私など相手にするわけなかろう」
小さな小さな声だった。
「あるのだとすれば――
それは夢幻の世界」
痛いな。
桜の心が痛い。
だから幻覚だと見破れたのか。
愛されていないから――
愛されるのは夢のことだと。
「お前だって…芹霞に愛されてるよ」
俺はそう言うしか無くて。
「お前に言われたくない」
言い捨てるようにそう言うと、桜は無造作に地面に置かれたままの、青い上着を着た。

