僕は――…


「当主。僕は……好きな人がいるんです」


目をそらさず、しっかりと当主の目を見た。


櫂と同じ…漆黒色の瞳に。


「他は何でもします。僕を…彼女と生かせて下さい」


当主。

貴方なら判っている筈だ。


この紫堂本家に、無関係な芹霞を住まわせた意味。

僕が頻繁に芹霞の部屋を訪れているのは、今までの付き合い以上の…"何か"を感じ取っているはずだ。

何より、僕の目を見れば判るだろう?


僕だって人間だ。

貴方も人間なら――


「…認めん」


揺るがない凍った瞳に、僕の心は悲鳴を上げた。


「お前は…櫂を好きだと言った女に懸想して、そして櫂亡き後、娘の記憶がないのをいいことに、何も知らぬ顔で奪おうとするのか。お前も…大した奴だ」


――あたしは、神崎芹霞は!!!


辛辣な言葉が、心に突き刺さる。



――紫堂櫂を愛してる!!!



「ただ、私も鬼ではない。皇城との婚姻は、久涅でもいい」


僕は、期待に目を見開いた。


「その場合――

次期当主の肩書きは剥奪する。

紫堂の名を名乗ることを一切禁じ、その名によって築いたもの全てを取り上げる」


追放。


芹霞を守る術を、櫂との約束を破棄されて――


僕は…惨めに野垂れ死にしろということか。


かつての、久涅のように。