人間、生きる為には…汚いものに飛び込まねばならねえ場面が必ずくる。


それが必然だというのなら、小猿はまだその時ではねえ。


ならばその時が来るまで、少しでも綺麗なものを見させてやりてえんだ。


ああ――

完全俺、小猿に情が移ったな。


朱貴の心が判るようになっちまった。


そんなことを思いながら、薄く笑った時。



「やばいでっせ…」


あまり緊張感のない言葉が飛んで来た。



「葉山はん…

引き摺られてますわ」


下にいる桜。


まるで立ちくらみを耐えているような、そんな動作で…ふらふらしていた。


いつもの警戒感も敏捷性も失われ、ただ…熱に浮かされたようにふらふら…。


何だ?

どうしたんだ?


その時、桜がこちらを見た。


顎で合図するその顔は上気していて、

妙な色気が漂っていた。


は!!?

色気!!?

そんなのとは無縁の桜が!!?


何で桜に、この場面であんな…って、あいつ、あてられたのか!!!?