何も無い。
空には何も無いじゃないか。
それとも何かあるのか?
あたしが立ち止まって空を見上げてあれこれ考えている隙に、久遠が走って横を擦抜けた。
疾風の如きその動きに、訳が判らないあたしが怪訝な顔を向ければ、
「せり、証拠なんて何もないぞ、ほら」
依然涼やかな顔の久遠が、話題を戻した。
上が何だったんだ?
その疑念は湧くけれど。
「あれ? あれれ?」
目に映るモノがあまりに不可思議すぎて。
「先刻まで此処に、確かに何か黒いものがあったのに…。あれ?」
プロペラがあるだけで…
今まで目に見えていたモノが忽然と消えている。
「あれ~? あれれ~!!?」
不思議だ。
魔法じゃないか!!!
「せり…歩きながら寝惚けるなよ。
本当にせりは馬鹿だよな」
久遠に鼻で笑われた。
「ええ!!? 確かに此処にあったはずなのに…」
「だからそれは夢だって。夢、夢!!! はい忘れろ!!!」
バンと柏を1つ打って切り上げられた。
ないなら仕方が無い。
不思議で仕方が無いけれど…。
だけど久遠…
何であんなに汗掻いているんだろう。
それに…ズボンのポケットに入れたもの、何なんだろう?
「何視てるんだよ、痴女か!!?」
凄んで睨まれた。
まあ…いいや。
「ああ…せりが馬鹿で助かった…」
言葉にもならない小さい声が聞こえてきたけれど…
まあいいや。

