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ふさふさ、ふさふさ久遠の毛が揺れて。


あたしはそれに埋もれながら、光を放つ鏡を動かして久遠を守っている。


光を強弱する方法も、屈折する方法も何1つ判らない。

ただ光が出ているから、それを久遠の身体に当てるだけ。

どれがベストの方法か判らないし、久遠だって教えてくれないけれど…あたしは考えられる限りの方法で、久遠を守ろうとしていた。


そんな健気なあたしを担ぎながら、久遠はずっと…重いだの、肉が邪魔だの…相変わらずの悪態ばかりついていたけれど、もう慣れてきたあたしは、それを聞き流していた。


久遠は――

軽やかに動く。


重いはずのあたしを担いだまま、飛び跳ねるように移動する。


本当に…獣だ。

美しく動く…孤高の獣そのもの。


久遠であれば、きっと鏡の力の補佐がなくても、大した被害を出さないまま…蛆に塗れた此の地を移動出来るのだろう。



久遠はきっと――

あたしが思っている以上に強い男だ。


女が狂ってしまう程の妖しい美貌。

そして旧家の当主という肩書き。


何事にも動じない精神。

頭の回転の速さ。


王子様などというものではなく、

貫禄がある王様だ。


もし久遠が外界で生きられたのなら、

時代の寵児として持て囃されるだろう。


難点は性格が捻くれているだけで。

いや、それが問題だ。


あまりに自由気儘で、

更には口が悪すぎる。


毒しか吐けないんだろうか、久遠の口は。


なんて言えないけれどね。


「……せり。口に出てる」


あたしは慌てて口を手で押さえた。