ドアを開けた瞬間、地面にもぞもぞ動く蚕や蛆。
その見慣れた…邪なる白色は、
夢――かと思った。
だからドアを開け直そうと…開け放ったドアを閉めて、再度思い切り開けてみても、その光景は変わらない。
あたしは絶句して立ち竦んでしまった。
黄色い蝶が居たのなら、蛆でも蚕でも…もう何が出現してもおかしくないかもしれないけれど、ここは"約束の地(カナン)"。
東京から離れている、隔離都市。
東京の災害とは、無縁のままで存在出来る人工都市。
海や空からしか東京からの移動手段はないというのに、悍しき蛆達はどのようにして"約束の地(カナン)"という人工都市に辿り着いたのか。
"約束の地(カナン)"が危険だということを感付いても…まさか"約束の地(カナン)"まで、あたし達が巻き込まれている謎な害敵にやられているとは露知らず。
これからの此の地の行く末を思えば、不安で堪らない。
――浄化の術が有効で、蛆が一掃出来た分だけまだ救われてる。ショッピング街は相当酷くやられていたから。
――ただ時間が経てば、浄化の術が薄れるから…こういう風に、蛆が湧き出てしまうんだ。ああまた後で、術のかけ直しだな。
久遠は、何の感慨もないすましたような顔のまま、平然とそう言うけれど、じゃあ今までどれだけ蛆に塗れていたのか…あたしが来る前までの有様を想像してあたしは顔を歪めさせた。
多くの…逃げ惑う来園者達は、屋敷に避難させたらしい。
屋敷は広いけれど、全員の収納には限りがある。
それでも…よくこの人数をも助けられたモノだ。
――私の鏡の光が、蛆を弾くからな。
蓮がずっと持っている、小さな鏡。
そこから出る銀の光は、蛆達に有効な特殊なものらしい。
その光を操れるのは、蓮だけだという。
久遠の浄化の術は、蓮の協力無しでは成り立たないらしい。
それが羨ましいあたしは、初めて横から手を出して蓮の鏡に触れ…そして中を覗いてみた。
すると――
――芹霞、何故お前が鏡を使える!!!?
鏡から溢れんばかりの銀色の光が放たれて。
――久遠様でも扱えないのに、何故!!?

