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あたしの右手には、小さな銀色の鏡。
あたしの左手は、久遠のふさふさ。
そしてあたしの身体は、久遠のふさふさに埋もれてぬくぬく。
「ねえ、久遠の毛…気持ちよくて温かいけれど、あたしは怪我してないし、自分の足で歩けるから」
何度口にしたか、この台詞。
「煩いな。せりはオレの足手纏いになるから、こうしてオレがわざわざ担ぎ上げてやってるんだろ?」
しかし久遠には取り付く島がなく。
それどころか、さも…有り難がれと言わんばかりに。
「言っておくけど、オレはあんな変な青い服着て、せりなんかをお姫様みたいに両手で抱き上げないから。相変わらず夢見るオトメ演じる気なら、早々に諦めて厳しい現実に還れ。そして蓮の鏡で、オレを守ることに尽力しろよ?」
そして続けて――
容赦なく言われた。
「……せり。太ったな」
どきっ。
「この肉の付き具合…
3kgは…肥えたか」
――何故判る!!!!!
「"約束の地(カナン)"にも来れないくらいに"危機的状況"にあって、何でぶくぶく太れるんだよ。本当に危機的状況にあったのか?」
嫌味たらたら…。
聞こえない。
何も聞こえない。
あたしは――
屋敷から出た直後のことを思い出す。
あたしの右手には、小さな銀色の鏡。
あたしの左手は、久遠のふさふさ。
そしてあたしの身体は、久遠のふさふさに埋もれてぬくぬく。
「ねえ、久遠の毛…気持ちよくて温かいけれど、あたしは怪我してないし、自分の足で歩けるから」
何度口にしたか、この台詞。
「煩いな。せりはオレの足手纏いになるから、こうしてオレがわざわざ担ぎ上げてやってるんだろ?」
しかし久遠には取り付く島がなく。
それどころか、さも…有り難がれと言わんばかりに。
「言っておくけど、オレはあんな変な青い服着て、せりなんかをお姫様みたいに両手で抱き上げないから。相変わらず夢見るオトメ演じる気なら、早々に諦めて厳しい現実に還れ。そして蓮の鏡で、オレを守ることに尽力しろよ?」
そして続けて――
容赦なく言われた。
「……せり。太ったな」
どきっ。
「この肉の付き具合…
3kgは…肥えたか」
――何故判る!!!!!
「"約束の地(カナン)"にも来れないくらいに"危機的状況"にあって、何でぶくぶく太れるんだよ。本当に危機的状況にあったのか?」
嫌味たらたら…。
聞こえない。
何も聞こえない。
あたしは――
屋敷から出た直後のことを思い出す。

