「蓮も無事だった「煩いと言っている!!!」
冷たい。
ご機嫌がよろしくないらしい。
美人の怒る顔は、迫力がある。
「芹霞。紫堂玲を起こす気か!!? 目覚めさせてまた無理させる気か!!? 此処に治療薬はないぞ!!?」
ニトロ…。
あたしは…"使っちゃや~よ"の瓶を思い出す。
「久遠様!!! 貴方もまた大人げない!!! 念願の芹霞が来て嬉しくて溜まらない上、思惑通り毛皮を通して"触って"くれて喜ぶ気持ちも判りますが、今は緊急事態だということをお忘れ無く!!!」
「蓮、別にオレは…「取りに行ってくる!!!」
あたしは、何かを言い争う久遠と蓮を残して、玄関に向かって走った。
ヘリに置いてきたあたしのバッグ。
あの中に玲くんのお薬が入っている。
バッグの口は閉じてたから、バッグを見つければ薬は手に入る。
玲くんがまた発作起きても、あの薬なら…。
そう、それにクマ男も気になる。
怪しい蝶が居たならば、探索は早くぱっぱとすませたい。
「せり、おい…せりッッッ!!!」
あっと言う間に久遠に追いつかれ、
「せりはいつも迷ってばかりなのに、どうしてこんな時は方向感覚がいいんだよ!!! この危険な中、何処行くつもりだよ!!?」
「ヘリ、ヘリよヘリ!!! 誰だか判らない最低最悪な人に落とされたヘリに、玲くんのお薬あるはずだから、それ取ってくるの!!!」
「………」
「久遠、見なかった!!? ヘリが誰落としたのか。どうやって落としたのか判らないけれど、犯人を思い切り殴り倒したいッッッ!!!
おかげで危険な目に遭ったんだから!!!」
「………」
「そいつがヘリなんて落としさえしなければ、探しに行くこともなく…元気な姿で久遠にも再会出来たのにね。
よりによって蝶の居る中に落とすなんてさ、何て極悪非道な奴なんだろうね!!!」
「………」
「そういう悪人には、必ず天罰下るんだから!!!
ね、久遠!!!」
久遠は――
何も言わなかった。
代わりに、
「オレも行く」
そう言って。
「は?」
あたしは思わず足を止めてしまった。
邪魔するならまだしも、何で久遠が付き添ってくれるの?
そんな優しい奴だったっけ?
「………武器の回収だ」
それだけを、忌々しげな口調で言い捨てると、あたしを残してすたすた先に歩き始めてしまう。
ふさふさ…。
ふさふさ…。
処処、背中が禿げているのは――
久遠に言わないでおこう。

