櫂がいなくなったらどうだ?


紫堂の内部は好き勝手に動き始める。


次期当主に齧り付き、僕の力の全てを提供すると誓ったのは僕自身。


元々僕は…紫堂に何も期待はしていなかったけれどね。


1つだけ、僕が"流され"ないのは…芹霞のこと。


何が何でも、芹霞を…僕の居る紫堂の家に置かせた。


反対が出るのは判っていた。

芹霞にとっても、親しみ慣れぬ場所であるのは判っていた。


だけど僕は、芹霞を…久涅を始めとした、様々な手から守らねばならない。


芹霞を、僕の傍からは離せなかった。


僕は、芹霞についての全ての情報を、僕に集結させ…芹霞を守るのに必死で。


殊更久涅が何か動けば必ず僕の耳に入り…都度僕は駆け付けた。


ああ、判っている。


守るなんていうのは建前。


僕が、芹霞を放したくなかったんだ。



僕の世界は、芹霞だけだった。


芹霞が居なければ、僕自身を保ってられない程…その存在に依存していたのは事実。


傍目では――

ただ捨てられたくなくてしがみついているように見えるのかもしれない。


久涅が嘲笑って引くのは、滑稽な僕に勝ち目がないと踏んでいるから。


だけどあいつだって分が悪いのは判っているはずだ。


芹霞の態度が軟化したのは、櫂と酷似しているからだ。


櫂の"影"は誰なのか。


僕か。

それとも、久涅か。


芹霞の笑顔の影の真実に、触れるのが無性に怖い。


彼女が大切にしたい"記憶"は、誰とのものなのか。


――紫堂櫂を愛してる!!!


もし彼女が、僕にとって狂うべき真実に還ったら。


彼女が、僕の元から完全に居なくなってしまったら。


その時僕は――。