「ねえ、久遠。あたしって…ボケてるかな?」
ナデナデ…。
「せりはボケじゃなくてただの馬鹿。しかもボケよりも深刻で致命的」
………。
凹むから、考えないようにしよう。
ナデナデ…。
「久遠の毛は気持ちいいね…」
言って気づく。
――おや?
いつから久遠の毛になったんだ?
しかも撫でると久遠は気持ちよさそうに目を細めていて。
まるで毛足の長い、綺麗な獣みたいだ。
「オレの毛だからな」
珍しくあたしの意見を肯定してくれたけれど。
やはり久遠の中でも、久遠の毛になってしまったらしい。
少しだけ沈黙が続いた。
久遠との沈黙は苦にならない。
あたしはひたすら黙ってナデナデし続ける。
ああ、本当に気持ちがいい。
「なあ…せり」
唐突に久遠が言った。
「本当に…忘れてしまったのか、
"あいつ"のこと」
「あいつって?」
久遠は突拍子もないことを突然言い出す。
「………。
せりが一番…
大切に思っている奴」
凄く低い…感情が込められていないような声色が響く。
「んんん??? 誰のこと?」
「……。すぐに判らないのは…やはりそうか。そして一番が変わったわけだ」
何で久遠は、自嘲気に笑うんだろう。
「何で…あいつの次は、
紫堂玲なんだ…?」
射るような紅紫色の瞳。
めらめらと…
何かが燃えるように揺らめく赤い光が強くなる。
「せり…。オレは認めない。
無論、"あいつ"もな」
顔つきは気怠げなままなのに、その眼差しだけは鋭くて。
責めているように、詰っているように。
それは久遠らしからぬ熱を伴い、
あたしに何かを訴えかける。

