シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


「ねえ、久遠。あたしって…ボケてるかな?」


ナデナデ…。


「せりはボケじゃなくてただの馬鹿。しかもボケよりも深刻で致命的」


………。


凹むから、考えないようにしよう。



ナデナデ…。


「久遠の毛は気持ちいいね…」


言って気づく。


――おや?

いつから久遠の毛になったんだ?



しかも撫でると久遠は気持ちよさそうに目を細めていて。


まるで毛足の長い、綺麗な獣みたいだ。


「オレの毛だからな」


珍しくあたしの意見を肯定してくれたけれど。


やはり久遠の中でも、久遠の毛になってしまったらしい。


少しだけ沈黙が続いた。

久遠との沈黙は苦にならない。


あたしはひたすら黙ってナデナデし続ける。


ああ、本当に気持ちがいい。


「なあ…せり」


唐突に久遠が言った。



「本当に…忘れてしまったのか、

"あいつ"のこと」




「あいつって?」


久遠は突拍子もないことを突然言い出す。


「………。

せりが一番…

大切に思っている奴」



凄く低い…感情が込められていないような声色が響く。



「んんん??? 誰のこと?」


「……。すぐに判らないのは…やはりそうか。そして一番が変わったわけだ」


何で久遠は、自嘲気に笑うんだろう。



「何で…あいつの次は、

紫堂玲なんだ…?」


射るような紅紫色の瞳。


めらめらと…

何かが燃えるように揺らめく赤い光が強くなる。


「せり…。オレは認めない。

無論、"あいつ"もな」


顔つきは気怠げなままなのに、その眼差しだけは鋭くて。

責めているように、詰っているように。


それは久遠らしからぬ熱を伴い、

あたしに何かを訴えかける。