「せり。オレは、"ハシバミの木"じゃない」
「ハシバミ?」
「グリム童話でのシンデレラ、邦名"灰かぶり姫"。灰かぶり姫には魔法使いは出てこない。庭にある…死んだ母親の墓に植えて育ったハシバミの木が揺れて震えて、魔法のような奇跡を起こす」
「じゃあ久遠のふさふさも、魔法が!!?」
そう目を輝かせば、久遠が哀れんだように上からあたしを見下ろしてくる。
「――…せり。
毟るなんて行為は無論、魔法と聞いて飛びつくのは子供のすること…魔法を信じないのは夢がないだって? せりは夢を見過ぎなんだよ、17にもなってて!!」
「久遠が夢を見なさ過ぎなのよ!!! すぐあたしをガキンチョ扱いして!!! そりゃああたしは久遠に比べたら、凄く凄く凄~く年下だけどね、」
「せり!! オレは19だ、せりと2つしか違わないんだ!! よくよく、その小さなひっからびた脳味噌に刻みつけておけ!! このオレを親父扱いするな!!」
ふんぞり返って威張り腐る久遠は、あくまで19歳らしい。
まあ…何歳でもいいけれど、久遠に限っては。
こんな口喧嘩している久遠の実年齢など、あってないに等しいものだ。
「……はぁっ。成長しないその貧相な体は、何を言ってももう仕方が無いと…好意的に目を瞑るにしても、頭くらい成長させろよ。育ったのは胸だけかよ」
「また、どうして久遠はあたしの胸に拘るの!!! 何処見てるのよ、何処を!!」
「せりに見れる部分なんてないだろう!!? 隠す程大した物でもあるまいし。それに大体、どうして大嫌いなせりの身体を、オレがわざわざ見ないといけないんだよ。オレだって見るモノを選ぶ権利はある!!!」
「何ですって!!!? 確かに大したものではないけれど!!! そこまで言い切られるとムカつく!!! 毟りとってやる、久遠の体毛!!!」
「何処がオレの体毛な…ああ、なんでそんなぶちぶち!!! やめろったら…おい!!! 禿げたらどうするんだよ!!!」
「そんな必要ないほどふさふさしているから、老後は安心!!!」
ぶちぶちぶち…。

