あたしは更に…久遠のふさふさな背中に抱きついた。
「せり…止めろ」
静かな静かな久遠の声が聞こえてくる。
「此処に連れてきてくれたのも、ありがとうね。本当にありがとう。玲くんも無理し過ぎていたから、安静が必要だったんだ。
久遠のおかげだよ、ありがとう…。
あたし達が来たのに気づいてくれて」
「せり……」
「あの日、"約束の地(カナン)"に来れなくてごめん。
だからと言う訳じゃないけれど…久遠が心配だから来ちゃった。よかったよ、久遠が無事で…」
「せり…。
止めろと言っているだろう」
そして久遠は――
彼の背中にあるあたしの手をむんずと掴んで。
「毛を毟(むし)るのはやめろ」
冷たい――
紅紫色の瞳で言われてしまった。
「せり。舌打ちするな」
だって…
久遠、気持ちよさそうなんだもの。
あたしも欲しいんだもの、そのふさふさ。
ああ何、その金持ち毛皮。
モロ、あたしのドストライク。
そのふさふさ感、
見ているだけで溜まらない。
それはまるで、あたしに…
"触って、揺すって、毟って"
と言っているようなもので。
ふさふさ…。
あたしのふさふさ…。
久遠の動き1つでふさふさがふるふると揺れる様が、見ているだけでたまらない。

