「そうだよな、"約束の地(カナン)"に来るという、少し前に交わした約束すら忘れる程の、記憶力なんてまるでない女だものな、せりは」
殺気!!!
「久々に会うオレが、こうして部屋の外に立っていても、ぶつぶつ紫堂玲のことばかり言いながら何度も前を通り過ぎ、挙げ句の果てに人を犯罪者扱い。外でぶっ倒れた紫堂玲とせりを此処に連れたのはこのオレなのに」
まだ殺気放ちますか!!?
しかも言葉の処処に、怨念めいているモノを感じるのは何故でしょう!!?
「元々馬鹿だと思ってたけれど、この短期間…更に馬鹿さ加減に輪をかけたな。せりの急成長を褒めてやるよ。おめでとう」
ぱちぱちぱち…。
久遠から拍手を貰った。
それが意外過ぎて…
「あ…いや、アリガトウゴザイマス…」
少し照れながら頭を摩りつつ御礼を言うと、
「――…はぁっ…」
思い切り大きな溜息1つ残して、久遠があたしに背を向けてすたすたと歩いて行くのが見えたから、あたしは慌ててふさふさな背中を追いかけた。
待って、待って!!!
あたしのふさふさ!!!
あたしは後からふさふさに抱きついた。
「……」
久遠の足が止った。
「久遠が無事で良かった!!!!」
そう、それがまず最初にあたしが言わねばならなかった言葉で。
今更かもしれないけれど、その気持ちは真実だから。

