シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

 
それ以降…

百面相を繰り返す由香ちゃんは、どっぷり自分の世界に入り込んでしまい…置き去りにされたあたしの存在は忘れられてしまったようだ。


幾ら由香ちゃんの名を呼べど叫べど、


「困った。ああ、本当に困った…」


頭を抱えてそればかり。


判ってくれとは言わないけれど。

だけど"困った"と表現されるのは気持ちいいものではなく。


由香ちゃんは玲くんとべったりだから…何か聞いているのかな。


結婚、のこととか?


だから、"困った"事態なのかな。


あたし…玲くんと始めようとするのは、間違っているのかな。


このまま"お試し"で終わらせて、何も始めないまま…


"結婚おめでとう"


そう笑顔で祝福した方がいいのかな。


胸が凄く痛む。


玲くんに"結婚しないで"と取り縋って泣いてしまいそうだ。


付き合ってもいないのに、

恋人でもないのに、


何、この独占欲。

何、この我が物顔。


浅ましいね…。


そう言える立場になるには、玲くんと本物の恋人同士になるのが前提で。


あたしと玲くんが両想いになるのが前提で。


「玲くん…付き合ってくれるかな」


結婚相手がいても。


「好きだって…言ってくれたし…」


ああ、何だか急に不安になってくる。


気が変わったとか、実はそんなつもりはないとか拒まれたらどうしよう。



「ああ、もう…ここの処敵には追いかけられるわ、それだけでもハラハラドキドキしてばかりだから…玲くんに告白なんて心臓がもたないや」



そう溜息をついた時。



「あれ…此処何処!!?」


目の前の景色が変わっているのに気付き、凄く驚いた。


物思いに耽りながら、いつの間にやら部屋を出て、ふらふらと屋敷の廊下を歩いていたらしい。


ここの屋敷の…部屋に至るドアは皆同じ造りだから、いつも迷うんだ。


いつも目印にしてる赤色のドアが見つからないとは、非常に困った事態。


此処かな?


それともこの部屋かな?


ドアを開けれど…多くの人間達が震えて縮こまっているだけで、由香ちゃんも玲くんも居ない。


何処だ!!?


「――というより、何なの、部屋という部屋に押し込まれている人達は。拉致!!? もしや久遠が罪ない人々を拉致ったの!!?」




「――…何で、


拉致らないといけないんだよ。


――このオレが…」



不機嫌そうな声が聞こえた。