それ以降…
百面相を繰り返す由香ちゃんは、どっぷり自分の世界に入り込んでしまい…置き去りにされたあたしの存在は忘れられてしまったようだ。
幾ら由香ちゃんの名を呼べど叫べど、
「困った。ああ、本当に困った…」
頭を抱えてそればかり。
判ってくれとは言わないけれど。
だけど"困った"と表現されるのは気持ちいいものではなく。
由香ちゃんは玲くんとべったりだから…何か聞いているのかな。
結婚、のこととか?
だから、"困った"事態なのかな。
あたし…玲くんと始めようとするのは、間違っているのかな。
このまま"お試し"で終わらせて、何も始めないまま…
"結婚おめでとう"
そう笑顔で祝福した方がいいのかな。
胸が凄く痛む。
玲くんに"結婚しないで"と取り縋って泣いてしまいそうだ。
付き合ってもいないのに、
恋人でもないのに、
何、この独占欲。
何、この我が物顔。
浅ましいね…。
そう言える立場になるには、玲くんと本物の恋人同士になるのが前提で。
あたしと玲くんが両想いになるのが前提で。
「玲くん…付き合ってくれるかな」
結婚相手がいても。
「好きだって…言ってくれたし…」
ああ、何だか急に不安になってくる。
気が変わったとか、実はそんなつもりはないとか拒まれたらどうしよう。
「ああ、もう…ここの処敵には追いかけられるわ、それだけでもハラハラドキドキしてばかりだから…玲くんに告白なんて心臓がもたないや」
そう溜息をついた時。
「あれ…此処何処!!?」
目の前の景色が変わっているのに気付き、凄く驚いた。
物思いに耽りながら、いつの間にやら部屋を出て、ふらふらと屋敷の廊下を歩いていたらしい。
ここの屋敷の…部屋に至るドアは皆同じ造りだから、いつも迷うんだ。
いつも目印にしてる赤色のドアが見つからないとは、非常に困った事態。
此処かな?
それともこの部屋かな?
ドアを開けれど…多くの人間達が震えて縮こまっているだけで、由香ちゃんも玲くんも居ない。
何処だ!!?
「――というより、何なの、部屋という部屋に押し込まれている人達は。拉致!!? もしや久遠が罪ない人々を拉致ったの!!?」
「――…何で、
拉致らないといけないんだよ。
――このオレが…」
不機嫌そうな声が聞こえた。

