シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


何でそんなに驚いているんだろう。


紫堂って言ったら、玲くんのことじゃない。

由香ちゃんが別称で言うのは珍しいけど、まさか玲くんの名字を忘れてしまったわけでもあるまい。


「師匠!!? そ、そりゃ…生きて隣の部屋で寝てるけど、ボクが言ってるのは、師匠じゃなくて…」


他の紫堂って言ったら…



不意に――


脳裏に浮かぶのは。


漆黒の髪。

漆黒色の瞳。


涼しげに整った顔をした…



「あ、久涅?」



すると由香ちゃんは地団駄を踏み始めた。


「君はいつからボケ担当になったんだい!!!」


「ボケ? 何でボケ?」


「んもう!!! 紫堂だってばさ!!!」


"紫堂"の部分だけをやけに小さな声色で、だけど唇の動きだけはわざとらしいくらいに大きくしながら、由香ちゃんは強い語調で言うけれど。



「だから、玲くんのこと? 久涅のこと?」


「紫堂だぞ、し・ど・う!!!」


また、"紫堂"を極端に小さく言うけれど。


「だからどっちのこと?」


「なあ…神崎。それ、わざとだよな」


途端に由香ちゃんの眉が、八の字になって。


「わざとって?」


話がよく見えないあたしは、首を傾げるばかりだった。