次期当主が変わるということは、紫堂財閥の色が変わると言うこと。


それが吉と出るか凶と出るかは、殆ど博打に近い。


櫂の場合は『吉』と出て、不可能を可能とする『気高き獅子』は、次世代の王として持て囃された。


その櫂に成り代わり、公式に次期当主となった僕。


対外的に、櫂程のインパクトが必要なんだろう。


久涅は…世間体ではどうしても櫂を彷彿させてしまい、「新たな紫堂」というキャッチフレーズを踏襲できない。ならば、その点で僕は利用価値があった。


悔しいね。

本当に腹立たしいね。


だけど僕は、ただの"イメージ"の産物で、実際はそう言える立場にない。


紫堂で、皆の前で僕は当主に罵倒される。


昔はここまで酷くはなかった。

今はただ――

己の力を誇示したいだけの、老醜にも思えてくるんだ。


――身の程知らず。


僕の…昔の境遇を知っている奴らが、知った顔で新人に吹聴する。


連鎖する"侮蔑"。


慣れてきたその眼差し。


――よく、図々しくも紫堂に顔を出せる。


かつて僕に謙(へりくだ)っていた輩は、僕が8年前に肩書きを無くした途端、高飛車に僕を攻撃し――僕が次期当主になった途端、態度をまた反転させる。


――お帰りなさいませ、玲様。お帰りをお待ちしておりました。


結局は、誰も"僕"を見てくれていないんだ。


そう、だから僕はいつも"諦めて"きたんだ。


名誉を挽回するチャンスも与えられず、全て…与えられたものの中で満足しないといけなくて。


それ以上を望むことは、僕には出来るはずがなかった。


奇異なる目。

蔑視。


かつての肩書きを廃された、没落人間の辿る先は…破滅。

それが罷(まか)り通るのが、紫堂だ。

それが当主のスタンスなのだから。


当主のスタンスに、皆が染まるのは当然のこと。


信頼関係などない紫堂において、そうしたものを押さえ込めるのは…当主に匹敵する程の絶対的な力が必要で。


櫂はその圧倒的な存在感にて、好き勝手に飛散する風聞を抑え込んできた。


僕の…悪評さえ。