視線を感じる。
久遠ではない。
黄色い外套男からだ。
殺気ではない。
その証拠に、男は動く気配を見せない。
ただ俺を見ているだけだ。
久遠の顔が、怪訝なものに変わる。
「何だ…? 気配が…ぶれる?」
久遠の呟き。
俺は感じていた。
男は確かに邪気には塗れてはいる。
だが邪気の発生は、その黄色い布。
男自身の…気配からは、同様な邪気は感じられない。
それが、久遠のいう"ぶれ"なんだろう。
ぶれているが為、男を走査出来ない。
見定める事が出来ない。
俺に注がれる男の視線。
俺は…覚えがあった。
しかし記憶とは…微妙に違う視線。
本物と…偽物の、混合したような視線。
ああ、そうか。
"あいつ"なのか。
俺には理由が判る。
理由が判らないから、久遠が気づかない。
確定には至らず、"ぶれ"に惑うのみ。
そして外套男は、それを久遠に告知せず――無言で俺だけを見ている。
だから俺は――。
「久…遠。芹霞…と玲の…元に行…け」
まだ発音は完璧ではなく、喉元は掠れて仕方が無いけれど。
「こい…つは…俺に…用だ」
そう。
この視線には覚えがある俺は、
視線で"言葉"を受け取ったんだ。
クオンヲドケロ。
それを拒絶すれば、間違いなく実力行使に出る。
目的の為には手段を選ばない。
そんな視線だから。

